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ゆっくり健康的に歳をとる秘訣【韓国トレンドレポート6月】

辛くて刺激的な麻辣湯、甘くてサクサクしたフルーツ飴、おしゃれで甘いカフェドリンク、アルコール度数の高いお酒。近年流行しているこれらの食品は、どれも魅力的なものばかりですが、健康志向とは少し違うかもしれません。こうした食生活の乱れを見直し、健康的に歳を重ねるライフスタイルが、韓国では新たな注目を集めています。

あだ名は「低速老化先生」

低速老化、または減速老化という言葉をご存じでしょうか。これは、「年齢に対して若々しく見える」といった見た目の若さを意味するものではなく、「健康寿命を延ばすこと」を目的とした考え方です。ヘルシーな食生活を心がけ、適度な運動で筋肉を維持し、高齢になってもできるだけ長く健康な状態を保つこと。こうした日々の積み重ねを通じて、老化の進行をゆるやかにするという意識こそが、「低速老化」です。韓国では、ソウルアサン病院の老年内科医であるチョン・ヒウォン教授(画像①)によって、この概念が広まり始めました。彼は「低速老化先生」という愛称で知られ、YouTubeやSNSを通じた発信活動により、若年層からも親しまれており、「低速老化」という考え方がその世代に浸透し始めています。
たとえば、揚げ物と雑穀ご飯の写真を同時にSNSに投稿し、「高速老化食と低速老化食、どっちも食べたから今日は中速老化」とユーモアを交えてコメントするなど、身近な形で概念を共有する工夫も見られます。

  • 画像①

健康的な食事のススメ

有名な食事法に、マインド(MIND, Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)というアメリカで開発されたものがあります。この食事法は、単純糖質と精製穀物を避け、全粒穀物と豆、野菜、ベリー類、ナッツ類、鶏肉と魚、オリーブオイルなどを積極的に摂ることで、食事中の血糖指数(GI)をゆるやかに上昇させることを目的としています。チョン・ヒウォン教授は、この欧米型のMIND食を韓国人の食生活に合う形にアレンジして広める取り組みを行っています。例えば、韓国で主食とされる白米を、豆を多く加えた雑穀米に置き換えるよう提案しています。豆の種類については、MIND食でよく使われるレンズ豆やひよこ豆に限らず、韓国料理に馴染みのあるインゲン豆、エンドウ豆、黒豆なども活用可能です。豆を食べることで、老化を早める動物性肉の消費を自然に減らしながら、タンパク質の摂取量を適切に維持することができるそうです。低速老化先生は、「これだけ食べれば健康になれる」というような栄養剤や特定食品に依存する考え方を否定し、誰にでも実践しやすい健康的な食事を提案しています。また、食事だけでなく、睡眠や運動の重要性についてもわかりやすく発信していたり、シニア層にはタンパク質の摂取が重要であることから、動物性肉を食べることをおすすめしたりもしています。一方で、チョン教授は「個人の意志だけで健康的な生活を継続するのは難しい」と一貫して指摘していたりもします。長距離通勤や業務過多といった社会的要因によって、健康的な生活を送りたくても実現が難しい人々が多くいるため、社会構造そのものの改善が必要だと訴えているのです。その一例として、心と体の健康に必要な“時間”を、自らが“使うことができる時間”という意味に捉え直し、「可処分時間」という独自の言葉を使っています。

画像②

手軽に実践するための商品化

長距離通勤や長時間労働によって「可処分時間」が減少すると、睡眠時間が削られ、心身の余裕も失われがちです。その結果、忍耐力が低下し、手間のかかる健康的な食事よりも、手軽に購入できて気分転換にもなる甘くて刺激の強い食品を選ぶ傾向が強まります。こうした現実を受けて、より簡単に健康的な食生活を実現できるよう、最近ではチョン・ヒウォン教授とのコラボ商品も登場しています。たとえば、コンビニチェーンのセブンイレブンでは、チョン教授の監修のもと、雑穀の使用量を増やし、ナトリウム量を抑えた弁当を開発・販売しています。ラインナップには、鶏むね肉の弁当や、レンズ豆入りのいなり寿司・キンパ、雑穀を使ったサンドイッチなど、バランスの取れたメニューが揃っています。
また、韓国最大の総合食品メーカーCJは、チョン・ヒウォン教授の監修レシピをもとに、全粒穀物を使った即席ご飯「ヘッパン ライスプラン」を商品化しました。このシリーズは、発売からわずか5か月で累計販売数150万個を突破するなど、大きな反響を呼んでいます(画像②)。

  • 画像③

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低速老化を意識した商品が続々登場

米が主食の韓国では、甘くて柔らかい菓子パンが好まれていますが、近年の「低速老化」ブームの影響を受け、ベーカリー市場シェアNo.1のチェーン店「パリバゲット」は、全粒粉とタンパク質含有量にこだわった健康志向のパンブランド「パラン(青い)ラベル」を立ち上げました(画像③)。「パランラベル」は発売からわずか1か月で、累計販売数120万個を記録しています。また、コンビニチェーンのemart24では、ウェルネスダイニング「ドクターロビン」とのコラボレーションにより、鶏むね肉のサンドイッチやカボチャキンパなど、健康に配慮した商品を展開しています(画像④)。

低速老化先生の方法論

「低速老化先生」として知られるチョン・ヒウォン教授が活動を始めたきっかけは、近年、20〜30代の間で高血圧や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病の発症が明らかに増加していることでした。あるコラムで彼は、「世の中には良いメッセージがたくさんあるが、必要としている人の心に届くのは容易ではない。20〜30代がSNSを見て笑いながら、自然とメッセージに親しんでくれることを願っている」と述べています。その言葉通り、「低速老化」への関心は少しずつ広がりつつあります。現在、チョン教授のYouTubeチャンネルの登録者数は46万人を超え、X(旧Twitter)上の「低速老化メニューコミュニティ」には約6.4万人が参加しています。このコミュニティでは、健康に良くておいしい「低速老化メニュー」のレシピや、日々の健康的な食事の写真などが共有されています。インスタ映えを狙った派手な食べ物ではなく、身体をいたわる食事をSNSで発信するという新しいトレンドが、これからも長く続くことを願っています。

引用元

画像① https://cjnews.cj.net/cj제일제당-햇반-라이스플랜-출시-다섯-달-만에-누/
画像② https://www.cjthemarket.com/pc/prod/prodDetail?prdCd=40206398
画像③ https://www.paris.co.kr/promotion/paran-label/
画像④ https://www.shinsegaegroupnewsroom.com/147175/

老年内科医先生がMZミームとおもしろ画像を勉強する理由.Cheil Magazine.2024-09-12
https://magazine.cheil.com/55928

低速老化先生SNS
https://x.com/DrEcsta
https://www.youtube.com/@slow_doctor/videos
https://kormedi.com/1707012/