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書き写しの時間【韓国トレンドレポート9月】

ソウルで国際図書展が開かれたりと、韓国では本に関するトレンドが注目を集めています。中でも、文章をノートに丸写しする筆写が大きな話題を呼んでいます。手で文字を書く時間は、デジタル化が進む今だからこそ特別な体験になるようです。

若年層の筆写ブーム

韓国人の年間平均読書量は3.9冊(2023年国民読書実態調査)ですが、年代別に見ると20代が年間9冊と最も多く、本を読む傾向が強いことがわかります。さらに、この若年層を中心に、本を読むだけでなく書き写す「筆写」が流行しているんです!筆写は単なる文字練習ではなく、心の安定や集中力の向上、文章力の強化など、さまざまな効果が期待できるそうです。AIが活躍する時代においても、高い文章力や語彙力は依然として重要なスキルです。本記事では、筆写に関連する書籍やアイテムを紹介します。

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雨後の筍のように発売される筆写関連書籍​

韓国の大型オンライン書店YES24によると、「筆写」関連書籍の出版点数は、2023年の113点から2024年には181点へと増加し、2025年には上半期だけで180点が新たに刊行されるなど、着実に拡大しています。最近では、筆写と多様な分野が融合したベストセラーが登場していたりもします。「筆写」の書籍の一般的な構成は、一面に文章、もう一面に書き写し用スペースを設けた形式です。代表的な例として、2024年のYES24年間総合ランキングで4位、2025年上半期には総合7位を獲得した『一日一枚 私の語彙力のための筆写ノート』(画像①)があります。また、人文分野では『より良い語彙を使いたいあなたのための筆写本』が6位にランクインし、10週間連続でトップ10入りしました。自己啓発分野では『大人の品格を満たす100日筆写ノート』(画像②)が3位を記録。さらに社会・政治分野では、昨年の非常戒厳宣言をきっかけに若年層の間で「憲法を学ぼう」という動きが広がり、『憲法筆写』(画像③)をはじめ、憲法条文を題材にした筆写ノートが上半期だけで6冊刊行されました。そのほか、人気アイドルバンドDAY6の歌詞筆写集(画像④)や、英語学習に筆写形式を応用した教材も高い人気を集めています。こうした多様な広がりを背景に、「筆写」関連書籍の売上は前年比約2.3倍(138.4%)と大きく伸びました。

筆者のためのアイテム

筆記具の需要も大きく伸びています。オンラインプラットフォーム「29CM」によると、2025年(1月1日~2月12日基準)の文房具・事務用品の取引額は前年比75%増加しました。カテゴリー別では、高級万年筆やボールペン、鉛筆などの筆記具が前年の2.4倍に拡大。ダイアリー・プランナーは64%増、ノート類も43%以上増加するなど、全般的に好調な伸びを示しています。また、万年筆やノートといった基本的な筆記具にとどまらず、ブックカバー、文鎮、しおりといった「読書グッズ」も人気を集めています。
若年層向けには、人気ドラマやアイドルの関連グッズとしてガラス製の文鎮が発売されるほか、螺鈿細工を用いたブックページホルダーを制作するワンデイクラスも開催されるなど、新たな広がりを見せています(画像⑤)。

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筆写人口の増加は、書籍や文房具の販売データだけでなく、さまざまな数字にも表れています。大型書店「教保文庫」が2015年から毎年開催している「教保手書き文字コンテスト」では、応募者数が2023年に14,739人、2024年に44,993人、2025年には75,134人と急増しました。特に筆写ブームが本格化した2024年以降は、毎年過去最多の応募者数を更新しています(画像⑥・⑦)。
こうした関心の高まりを受け、出版社も新しい取り組みを始めています。世界文学シリーズを展開する「民音社」がリリースした『2025 世界文学日めくり』は、日めくりカレンダーのように毎日異なる名作文学の一節を表示するアプリです(画像⑧)。アプリ上で文章をタイピングできるだけでなく、ユーザーの中には紙のノートに直接書き写す人も多く見られます。同アプリはApp Storeの「書籍」カテゴリ有料アプリ部門で1位を獲得しました。

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書き写しながら瞑想

これまでの他のトレンドと同様に、筆写ブームもSNSを通じて広がっています。ハッシュタグ「#필사스타그램(筆写スタグラム)」の投稿は13.3万件に上り、筆写記録を継続的に発信する、フォロワー10万人規模のインフルエンサーも登場しました。スマートフォンやインターネットから離れ、文章を書き写しながら意味を噛みしめる体験や、手で文字を書くことに集中する時間は、多くの人にとって新鮮で魅力的です。すべてがデジタル化され、手書きの機会が失われつつある今だからこそ、筆写は特別な価値を持ち続けると考えられます。筆写トレンドは一過性ではなく、今後も韓国社会に根付いていく可能性が高いでしょう。

引用元

画像①〜④ https://ch.yes24.com/article/details/81234​
画像⑤ https://www.instagram.com/p/DBWFzxHzdRh/
画像⑥⑦ https://store.kyobobook.co.kr/handwriting/story?page=1&category=6
画像⑧ https://apps.apple.com/kr/app/2025-%EC%84%B8%EA%B3%84%EB%AC%B8%ED%95%99-%EC%9D%BC%EB%A0%A5/id6739196693

https://www.mcst.go.kr/kor/s_notice/notice/noticeView.jsp?pSeq=18001